1925年、ゴールドベルクは16歳でドイツの名門オーケストラである、ドレスデン・フィルのコンサートマスターに就任しました。(ちなみに、16歳で大オーケストラのコンサートマスターになったという歴史は未だに破られていないそうです。)
1926年、ゴールドベルクはフルトヴェングラーに請われて、《ミサ・ソレムニス》
のソリストとして、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターの役を務めますが、1929年、フルトヴェングラーは再び、まだ19歳のゴールドベルクをベルリン・フィルのコンサートマスターに指名し、ここに史上最年少のベルリン・フィル・コンサートマスターが誕生します。
ドレスデン・フィルはゴールドベルクにとって、言わば彼のキャリアーの出発点でしたが、職務の他にも、ここでの約4年間に彼はオーボエを習ったり、オルガンも学び始め、バッハが弾いたオルガンを弾き、バッハが坐ったベンチに腰をかけ、胸にこみ上げてくる言いしれぬ感動を深く心にしまったなどということもあったそうです。
16歳で既に不思議なほど、ヴァイオリン演奏家として成熟していたこの知的好奇心に溢れる少年を、そこで出合ったヒンデミット、グラズノフ、エーリヒ・クライバー、フリッツ・ブッシュ、ピアティゴルスキーなど多くの大人たちが期待し、古参のオーケストラ団員たちも大いなる喜びをもって彼に付き従ってくれたそうです。
それから四分の三世紀も経た2000年夏、ドレスデン・フィルの日本公演の際、団員たちは初めて、彼等が敬愛するゴールドベルクの未亡人という人が日本に居ることを知り、幹部四人の方が、美代子宅を訪ねて来られました。玄関に置かれていたゴールドベルクの大きな写真に、ドイツの大男たちが最敬礼をして入って来られ、多くの情報交換と歓談の後、彼ら持参のワインを開け、一同でゴールドベルクに杯を捧げたそうです。
その様なこともあって、やがてドレスデン・フィルから美代子のところに、シモン・ゴールドベルクの名を冠した国際ヴァイオリン・コンクールを開催したい旨、ゴールドベルクの名を掲げる許可と美代子を審査員として招聘したいとの要請があり、美代子は承諾しました。
様々な事情が重なり、結局このコンクールは実現しませんでしたが、ドレスデン・フィルは、2009年、ゴールドベルク生誕100年の年に記念音楽祭を企画しました。この時点で美代子は既に他界していました。
2009年11月から2010年3月に亘って、ドレスデンでは、3回の記念コンサートと、ゴールドベルクの生涯を語る資料展示が行われました。この企画の中心は、ヴァイオリニストであり、ドレスデン・フィルの幹部団員でもあるフォルカー・カープVolker Karp氏です。彼は、往年の大家たちのSP,LPレコードなどを所有し、ゴールドベルクの前年にはダヴィッド・オイストラッフの記念祭も企画しました。
(大木裕子)
2009年11月〜2010年3月 | 於ウェーバー・ミュージアム |
ゴールドベルク展 |
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ウェーバー・ミュージアム(Carl-Maria-von-Weber-Museum)は、ドレスデンの町の中心から車で20分ほどの所にあります。
ウェーバーが、ワイン栽培業者の家であったここを気に入り、夏の別荘として借り受け、1818年、19年、22年、24年と家族と共に滞在しました。彼が友人に書き送った手紙に、「僕は、田舎の素晴らしい自然と平和な静寂に囲まれて暮らしています。 ここの生活は、もう一度、僕の心が求めるままに生きることを可能にしてくれます。」と書かれています。
当時は、宮廷を中心にイタリアオペラが主流でしたが、ウェーバーはロマン的ドイツ歌劇の発達のために献身的な努力を払いました。ここで、音楽史上にドイツオペラの確立を刻んだ《魔弾の射手》を始め、《オイリュアンテ》などを完成させ、また《オベロン》や《舞踏への勧誘》の最初のアウトラインを書いています。ただ、彼が愛したドレスデンは彼をあまり評価しませんでした。当時のドレスデンは宮廷の町であったからなのでしょうか。
2009年11月11日 | 於:ウェーバー・ミュージアム |
フォルカー・カープ氏による開会の辞と展示資料の説明 |
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2009年12月9日 | 於:ドイツ衛生博物館エントランスホール |
シンポジウム《シモン・ゴールドベルクの世界》(17:00) |
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パネリスト:大木裕子、 Volker Karp, Dr. Karen Kopp,
Mathias Hain
ドレスデン フィルハーモニー・室内オーケストラ記念コンサート(20:00) |
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ヴァイオリン、指揮:Wolfgang Hentrich
ヴァイオリン:Heike Janicke
ヴァイオリン:Ralf – Carsten Bromsel
ヴァイオリン:Maria Stosiek
ヴィヴァルディ:3つのヴァイオリンのための協奏曲
バッハ:3つのヴァイオリンのための協奏曲
テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲
ヴィヴァルディ:4つのヴァイオリンのための協奏曲
ハンス・コックス:29人の演奏者のための6つの一幕劇
ハイドン:交響曲 第57番 ニ長調
Vivaldi : Konzert für 3 Violinen
Bach : Konzert für 3 Violinen
Telemann : Fantasie für Solo Violine
Vivaldi : Konzert für 4 Violinen und Streichorchester
Hans Kox : Six one-act plays for 29 musicians
Haydn : Sinfonie Nr.57 D-Dur
※このコンサートには、亡き美代子の代わりに妹の大木裕子が招待されました。コンサートの前に行われたパネル・ディスカッションで、ゴールドベルクについていろいろ語られる中、パネリストの一人の大木裕子は、ゴールドベルクを直接には知らない方たちからの様々な質問に答えました。そして、続くコンサートは次のような司会者の言葉で始められました。
「今日ここで演奏する人達は、ゴールドベルクと直接接したことのある人は居ませんし、年齢的にも孫にあたる位の人達ですが、ゴールドベルクがこの地に遺した音楽的伝統をしっかりと護って演奏しています。どうぞ聴いて下さい」と。
※この日のコンサートは、Deutches Hygine-Museum (ドイツ衛生博物館)のエントランス・ホールで行われましたが、この建物が建てられたとき、当時としては最もモダンな建物だったそうで、若きゴールドベルクはこのホールを好んだらしく、ドレスデン室内管弦楽の演奏会の時は好んでこのホールでコンサートを行ったそうです。
2010年1月17日 | 於:ウェーバー・ミュージアム |
フォルカー・カープ氏による講演《シモン・ゴールドベルクの音楽と人生》 |
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カープ氏が所蔵する、ゴールドベルクの歴史的音源、SPレコードやLPレコードによるソロや室内楽、オーケストラの演奏が披露され、それらについての講演が為されたそうです。
2010年3月3日 | 於:ウェーバー・ミュージアム |
閉会のコンサート |
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Wolfgang Hentrich(ヴァイオリン)
Camillo Radicke(ピアノ)
ブラームスとシューマンのヴァイオリン・ソナタ
Sonaten für Violine und Klavier von Johannes Brahms und Robert Schumann