2015年7月7日、2年ごとのドレスデン・フィル日本公演期間中の1日を割いて、コンサートマスター、ヘントリッヒ氏率いるドレスデン・フィルハーモニー室内管弦楽団が、藝大弦楽科と共演。
藝大音楽研究センター内のシモン・ゴールドベルク文庫の公開を記念して、奏楽堂にて、シモン・ゴールドベルク メモリアル コンサートが開催された。
曲目は、
最初のバッハ:2つのヴァイオリンのためのコンチェルトでは、ヘントリッヒ氏が指揮及び第1ヴァイオリン、澤和樹先生が第2ヴァイオリンを受け持ち、モーツァルトとフォルクマンは同じくドレスデン室内管弦楽団とヘントリッヒ氏の指揮で演奏され、コンサートの後半、チャイコフスキーでは、藝大弦楽科の教授や、卒業生、大学院生などがオーケストラに加わり夢の共演が披露された。
この演奏会は、2年前にヘントリッヒ氏が藝大のシモン・ゴールドベルク文庫がまだ未公開の時期に訪れた際、澤先生がヘントリッヒ氏にご挨拶にみえて、その際に、いずれこの文庫が公開される時には、共演で記念音楽会が出来ると良いがという案が持ち上がり、2年後の今年、これが実現したものである。
ドレスデン室内管弦楽団のご厚意により、このコンサートのために、ヘントリッヒ氏をはじめ、16名もの弦楽メンバーが演奏会の趣旨に賛同し、ボランティア出演して下さり、入場料の収益は全てシモン・ゴールドベルク文庫の今後の研究維持のために寄付金として捧げられた。
また、奏楽堂ホワイエでは、ゴールドベルクを紹介するパネル展示やスライドショーを見ることができ、さらにコンサート開演前の約30分間、藝大付属図書館に寄贈されたクリストファー・N・野澤氏の2万枚以上のSPレコードコレクションの中から、シモン・ゴールドベルクSPレコードコンサートが行われた。
演奏曲目は以下の通り。
――― 時間切れのため、ここまでで終了 ―――
これらは、往年の手巻きの蓄音機で披露された。
この蓄音機も同じく野澤氏の寄贈によるものだそうで、当時この種の蓄音機は家1軒が買える位の値段だったそうである。SPの演奏時間は片面5分、5分毎に針を替え、新たな5分のために手巻きでゼンマイを巻き直して聴く演奏、その空間に響く音は、モーツァルトの時代には“斯く在ったであろう”と思えるような音の質、空間の密度であったように思えた。
この演奏会は、開演前のSPコンサートも含め、これがヨーロッパの伝統、雰囲気と人に感じさせた感があり、企画側と、演奏者、聴衆が三者一体となって在りし日の風韻を偲ぶという、正にメモリアル コンサートとは斯く在るべきというコンサートであったように思える。
伝統の継承ということを考えてみると、その時代の気風をぎりぎりの年齢で直接に知り、引き継いだ人たちが、その時代を全く知らない次世代の人達に、実演によって引き渡していく事なのだと思うと、この演奏会は正にその瞬間を目の当たりにした.一夜であった。
文化の継承ということを大切にし、身を持って実践し、そのことによって新しい時代をより筋の通った確実なものとしていく努力を、国境を越えて続けておられる世界の音楽家たちの意思と献身に、心からの敬意を捧げたい。
(大木 裕子)